箱庭の夢【黒】 (ページ11)

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授業前だからか、保健室の先生はまだ職員室にいるようだった。
まあ、着替えるだけだし……と一応保健室の名簿にクラスと名前を書いておく。途中で先生来るだろうし

ジャージを貸してくれた男の子は保健室のソファにちょこんと座ったので、わたしもベッド付近のカーテンを閉め、ジャージに着替える。

着替え終わってソファ付近に行き、声をかける。
　
「…ジャージ、ありがとう、ございます」

「おん。さすがにちょっとでかかったか」

そりゃそうよな、まあでもあったかくなるやろ！と彼は笑った。

「あの、お礼、させてください。えと、5組の…」

「向井康二！別にお礼なんてええよ、困ってる人がいたら助けるのは当然やろ？」

そうやってにこっと笑う向井くん。
でも、ふと表情が暗くなって、悩んでいるような顔をする。うーん、と唸りながら、うん、と頷いたのちに向井くんは口を開いた。

「君…えーっと」

「Aです」

「Aちゃんはさ、……えっと、嫌がらせ受けてるん？」

悩みに悩んで聞いてくれたのだろう。こちらの顔色を伺いながら、向井くんは聞いてきた。

「…嫌がらせ、なんでしょうか」

「…だって濡れてたのやって、典型的なバケツの水かけられる…とかやろ？それって立派な嫌がらせやんか。少なくともAちゃんにも迷惑かかっとるしさあ」

なんでそんなことするんやろな。嫌がらせなんて誰だろうとしちゃいかんよ。

そんな風に言う向井くんは、当事者ではないのに当事者以上に怒っている気がする。

けれどなんだかわたしの気持ちが救われたような気がした。