ガラスの靴を振りかざして6_緑 (ページ42)

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生放送を終えた楽屋で、なかなか帰ってこない私を待っていたはずの阿部さん。
しばらく経ち、ようやく戻ってきたかと思えば、それは私ではなく別番組を担当している吉野さんで。

彼女から私の話を聞かされたであろう阿部さんは、どんな気持ちで電話をして…そしてどんな気持ちでこの文章を打ったのだろう。

彼らしくない文章からは感情を読み取ることができず、考えれば考えるほど私の心は掻き乱されてしまう。

それでも何か返さないと。
彼が怒っていようが、呆れていようが、人として、マネージャーとしてまずは迷惑を掛けたことを謝るのが筋である。

『連絡が遅くなってすみません。いま病院です』

送って、その次は…なんて考える暇もない。
ケータイを握りしめていたとしか思えない速さで既読がついたかと思えば、すぐに返信が戻ってきた。

『良かった！事情はスタッフさんから聞いてる。さっきのグループチャットも見たけど怪我の具合はどう？本当に無事なの？』

『大したことないよ、今怪我したところを縫ってもらってた。このあと診断書とか諸々説明してもらうからまだもう少しかかりそうだけど、終わり次第戻ります』

もう少し…とは言ったものの、依然として診察室に呼ばれる気配はないし、それに無事かと聞かれれば、たぶん無事ではない。
隠していてもどうせすぐバレるんだからと、阿部さんには先に怪我の程度を伝えてみる。
なんでもない感じを装ってみたが、やっぱり「縫った」という表現はまずかったのかもしれないと送ってから気が付いた。
さっきと同じように既読はついたものの、そこからの返信に変な間ができてしまったからだ。

これは伝えない方が良かったやつだな。

こういう時、バカ馬鹿正直というか、うまく立ち回れない自分の生真面目な性格が嫌になる。
私のせいではないと分かっているのに、正体不明の罪悪感にチクリと背中を刺された。
なんとなくむず痒くなり、だらしなく寄りかかっていた壁から離れると、背筋を伸ばして座り直す。
同時に返事がきた。

『病院教えてくれる？そっちに行くから』

ほら、言わんこっちゃない。

『車で十五分くらいの金子メディカルセンターってとこ。でも来なくて大丈夫』

『すぐ行くから待ってて。救急外来だよね？』

『本当に大丈夫だって、阿部さんはこのあとも仕事あるでしょ』

いかにもな理由をつけて来ないように促してはみたものの、そんなことで引き下がる阿部さんではない。