ガラスの靴を振りかざして6_緑 (ページ20)

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こっちだってうかしてられない。

彼女に感化され、いつもの癖で「私なんかまだまだ…」と謙遜しそうになる口を噤むと、背筋を伸ばし、胸を張った。

「まかせて。その時までにこっちも決定権があるくらいまで昇進しとくから」
「お、てことは目指せチーフマネージャーだ」
「うぐぐ、田ノ上さんを超えるにはちょーっと時間が掛かるかも……」

でも、トムとぞのっちならなんとか…なんて失礼なことを言いながら唸る。
年上で女で未経験という、実に中途半端なポジションに突然鎮座した私を、二人は一度としてぞんざいに扱うようなことはなかった。
丁寧に仕事を教えてくれたり、時には相談に乗ってくれたり、同級生のようにふざけ合ったり。
そんな風に大変良くしてくれている二人だからこそ、半分冗談で半分本気。
「姉さん」と呼ばれるだけでなく、いつか本当に頼られる存在になりたいと、結構マジで思っている。

吉野さんと見つめ合い、そしてほぼ同時に小さく吹き出した。
仕事が楽しくて楽しくて仕方がない。

私も吉野さんのように、自信に満ち溢れた表情になれているだろうか。

「それにしても、今日も素晴らしいくらいにキラキラしてますねぇ、阿部さんは」
「ふふふ、おかげさまで」
「完全な主観なんだけどさ」
「うん？」
「阿部さんてさ私たちにスタッフに対しても礼儀正しくて穏やかだし、プライベートでもあんまり怒らなさそうだよね」

それはどうかな。
実はさっきまではちょっとした冷戦状態でしたなんて言えるはずもなく、誤魔化すようにへらっとした愛想笑いで返す。

──ああ、そうだった。

冷戦に至る原因があったんだっけ。
忘れてはいけない、どうか杞憂であって欲しい。
そんな複雑な事情を思い出し、私は人知れず顔を歪める。

番組も終盤に差し掛かり、阿部さんは番組に寄せられた質問に答えはじめたところだ。
とはいえ質問内容も、それに対する回答も、事前に本人を交えてスタッフさん達と打ち合わせをしている。
適度に考えるそぶりを挟みながら阿部さんが何か言えば盛り上がり、相変わらず暖かい雰囲気のまま迎え入れられていた。

ここまで何一つ問題はなく順調だった。
誰がどう見ても微笑ましく理想的な生放送の光景が広がっているはずなのに、なぜだか、私の心は三日ぶりに晴れ渡る空とは真逆に、次第にどんよりとした、重たく鬱々とした気分が支配し始めていた。